ワールドシリーズが「封じ込めを破り」、ソーシャルメディアで新たなファン層を獲得

伝統スポーツの新たな局面:ワールドシリーズが示す変化

2025年のワールドシリーズは、野球界に新たな時代の到来を告げました。トロント・ブルージェイズとロサンゼルス・ドジャースの間で行われた手に汗握る第7戦は、米国で2,600万人もの視聴者を集め、2017年以来最も視聴されたワールドシリーズの試合となりました。特に、カナダでは人口の45%がこの試合の一部を視聴し、日本からの視聴者データを含めると、この第7戦は過去34年間で最も視聴されたMLBの試合となり、国際的な関心の高まりを明確に示しました。

長らく「アメリカの国技」としての地位が揺らぎ、視聴者数や観客動員数の減少に悩まされてきたMLBにとって、これは大きな転換点です。リーグは、若く多様な層にアプローチするため、ソーシャルメディアの活用、ハローキティのボブルヘッド配布、ピッチクロックやゴーストランナーといったルール変更、さらにはロボット審判の導入(来シーズンから)など、様々な戦略を打ち出してきました。特に、野球が国民的娯楽である日本市場への注力は顕著です。

ソーシャルメディアが牽引する「野球の再定義」

今回のワールドシリーズの成功は、ソーシャルメディアが果たす役割の大きさを浮き彫りにしました。Instagramでは、選手たちが身につける高価なジュエリー(ブラディミール・ゲレーロJr.のダイヤモンドペンダント、ミゲル・ロハスのヴァンクリーフ&アーペル、山本由伸のサファイアテニスネックレスなど)が話題となり、野球ファン以外のアカウントでも盛んに投稿されました。

  • TikTokでは、ファッション愛好家が選手の服装を分析し、K-POPファンが選手をアイドルグループのメンバーのように「Kpopifying sports」と称してフォトカードを作成する現象が見られました。ワールドシリーズ関連のハッシュタグ(#worldseriesが160%増、#dodgersが210%増、#bluejaysが325%増)は急増し、ファンが作成したハイライト動画は、トレンドの楽曲と組み合わされ、新たな視聴者層を惹きつけました。
  • Blueskyでも、試合中はトラフィックが急増し、普段野球に言及しない人々もリアルタイムで熱狂を共有しました。

これらの現象は、ソーシャルメディアが単なる情報伝達のツールではなく、文化的なコンテンツを再構築し、新たなコミュニティを形成する強力なプラットフォームであることを示しています。

野球が語る現代社会の物語

野球は、単なるスポーツの枠を超え、現代社会の多様な物語を映し出す鏡でもあります。シアトル・マリナーズの「おとぎ話の終わり」や、ゲレーロJr.が父親のためにワールドシリーズの指輪を勝ち取ろうとする姿、そして大谷翔平の目覚ましい活躍など、選手一人ひとりのドラマが観客の心を掴みました。

さらに、今回のシリーズでは、米国とカナダ間の貿易戦争や、MLB選手の多様性(全選手の4分の1以上が米国以外の出身)と、ロサンゼルス地域での移民取り締まりの対比など、政治的・社会的なメタナラティブも浮上しました。多様な背景を持つ選手たちが集うドジャースが、移民の街ロサンゼルスを代表して戦う姿は、多くの人々に共感を呼びました。

「適応か、死か」MLBの未来戦略

MLBは、「適応か、死か」という現代のビジネス哲学を深く理解し、伝統的なスポーツを現代の観客に合わせて調整する道を歩んでいます。初期の兆候は、MLBの新しい戦略が功を奏していることを示しています。

批評、分析、ファンによる編集、ミーム、ライブリアクション、満員のスタジアム、そしてウォッチパーティーなど、大衆の積極的な関与こそが、野球を単なる娯楽から「大文字の文化」へと昇華させる原動力となっています。今回のポストシーズンは、その可能性を最大限に示し、今後の野球界の発展に大きな期待を抱かせます。


元記事: https://www.theverge.com/report/814483/world-series-dodgers-blue-jays-fandom-social-media