はじめに:変化するYouTuberの収益モデル
YouTubeは、クリエイターが生活を立てるための膨大な機会を提供する最大のプラットフォームの一つとなっています。2025年6月には、YouTubeのクリエイティブエコシステムが米国GDPに550億ドル以上貢献し、49万人以上のフルタイム雇用を創出したと報告されました。しかし、多くのYouTuberは広告収入やブランド契約への依存度を減らしています。この変化にはいくつかの理由があります。
まず、広告収入は予測不可能です。YouTubeがポリシーを継続的に更新する中で、一部のクリエイターは動画の広告確保に苦労し、収益に悪影響を及ぼすことがあります。また、これらの収入源が予期せず消滅する可能性があることにも気づいています。プラットフォームに依存する収益の不安定性を認識し、多くのYouTuberはもはや単なるクリエイターではありません。彼らは、アルゴリズムの変更やポリシーの変動を乗り越えられる、製品ライン、実店舗事業、消費者ブランドなど、並行するビジネスを持つ垂直統合型メディア企業へと進化しています。場合によっては、これらの副業がYouTubeチャンネルよりも速く、より持続的に成長しています。
MrBeast:積極的な事業多角化の旗手
4億4200万人の登録者を持つジミー・ドナルドソン、通称MrBeastは、YouTube最大のスターであるだけでなく、最も積極的な起業家でもあります。2018年に始まったマーチャンダイズストア「ShopMrBeast」は、彼のビジネスポートフォリオへと爆発的に拡大し、現在3年目を迎えるスナックブランド「Feastables」もその一つです。
- Feastablesの成功: 初期の製品である「MrBeast Bar」は、発売からわずか72時間で1000万ドル以上の売上を記録し、100万本以上を販売しました。現在、Feastablesは彼のYouTubeコンテンツやPrime Videoの競争シリーズ「Beast Games」よりも収益性が高くなっています。2024年には、Feastablesが約2億5000万ドルの収益と2000万ドル以上の利益を生み出した一方で、彼のメディア事業は約8000万ドルの損失を出しています。
- その他の事業: Lunchly(YouTuberのローガン・ポールとKSIとの共同設立)、おもちゃのライン「MrBeast Lab」、MrBeast Burger、分析プラットフォーム「Viewstats」などがあります。
- 新たな挑戦: 米国TikTokの買収を試みたこともあり、現在はモバイル仮想ネットワーク事業者(MVNO)の設立や、銀行、金融アドバイザリー、暗号通貨交換サービスを提供するモバイルアプリの商標登録、さらにはサウジアラビアでのテーマパーク開設も計画しています。
Emma Chamberlain:コーヒーブランドで成功
2016年にティーンのVloggerとして名を馳せ、現在1200万人以上の登録者を持つエマ・チェンバレンは、飲料業界で成功を収めています。彼女は2019年に自身のコーヒーブランド「Chamberlain Coffee」を立ち上げ、コールドブリュー、コーヒーポッド、挽き豆、ホールビーン、さらには紅茶や抹茶など、様々な製品を提供しています。
- ブランドの成長: 2023年には2000万ドル近い収益を上げ、今年1月には初の物理店舗をオープンしました。2025年までに50%以上の収益成長(3300万ドル以上)が見込まれており、2026年までの黒字化を目指しています。
Logan Paul:物議を醸しながらもビジネスを拡大
2360万人の登録者を持つローガン・ポールは、現在はレスリング選手として知られていますが、過去には2017年の悪名高い動画や、詐欺的とされたNFTプロジェクト「CryptoZoo」などで多くの物議を醸しました。
- Primeエナジードリンク: YouTuberのKSIと共同設立したエナジードリンクブランド「Prime」は、2022年に急速なバイラルヒットを記録し、2023年には12億ドル以上の売上を達成しました。これは、ほとんどのコンテンツクリエイターが視聴回数、広告、ブランド契約から得る収入をはるかに超える数字です。しかし、その後は売上が減少し、高カフェイン含有量に対する規制当局の監視、ビジネスパートナーからの訴訟に直面しています。特に英国では、2023年から2024年にかけて売上が約70%減少しました。
- その他の事業: 彼の別の事業である「Maverick Apparel」は、2020年に3000万ドルから4000万ドルの売上を記録しました。
その他のYouTuberの多角化事例
- Ryan’s World: 13歳のライアン・カジがホストを務める「Ryan’s World」は、約4000万人の若い視聴者を魅了しています。おもちゃのレビューや開封動画で有名になり、おもちゃやアパレルラインを通じて2020年には2億5000万ドル以上の収益を上げています。テレビ番組や教育アプリも展開しています。
- Rosanna Pansino: 1480万人の登録者を持つ人気ベイカー、ロザンナ・パンシーノは、ポップカルチャーにインスパイアされたレシピで知られています。彼女は「Nerdy Nummies」ブランドで複数の料理本を出版し、Amazonなどでベーキングツールも販売しています。
- Michelle Phan: 2007年にメイクアップチュートリアルで有名になったミシェル・ファンは、ビューティーサブスクリプションサービス「Ipsy」を共同設立し、自身のメイクアップライン「EM Cosmetics」も持っています。
- Huda Kattan: 2013年にグローバルブランド「Huda Beauty」を設立したフーダ・カタンは、年間数億ドルの売上を誇ります。2017年に売却した少数株を今年6月に買い戻すなど、ブランドのビジョンを重視しています。
結論:クリエイターエコノミーの進化
これらの事例は、YouTuberが単なるコンテンツクリエイターから、多角的なビジネスを展開する起業家へと進化していることを明確に示しています。広告収入の不安定性という「セキュリティリスク」を回避し、より持続可能で強固な収益基盤を築くために、彼らは自身のブランドと影響力を活用して、様々な業界に進出しています。これは、クリエイターエコノミーが成熟し、個人のブランドが持つ経済的価値が飛躍的に高まっていることを示唆しています。
