国が「大株主」となる半導体スタートアップxLight:その意味とは?
チップ開発スタートアップのxLightが、米政府からの巨額投資により「アンクル・サム」を主要株主の一人として迎えることになります。これは、米政府が民間スタートアップに株式を取得する3例目であり、物議を醸す戦略の拡大を意味します。政府がキャプテーブルに名を連ねることで、企業はどのような影響を受けるのでしょうか?
米政府、xLightに最大1億5000万ドル投資:CHIPS法活用
ウォール・ストリート・ジャーナルが報じたところによると、米商務省はxLightに対し、最大1億5000万ドルを投じ、その見返りとして株式を取得します。これにより、政府は同社の最大の株主となる可能性が高いとのことです。この取引は、2022年のCHIPSおよび科学法(Chips and Science Act)の資金を活用したもので、トランプ政権2期目における初のCHIPS法による授与となります。過去には、Intel、MP Materials、Lithium Americas、Trilogy Metalsといった上場企業や、2つのレアアーススタートアップも同様の政府出資を受けています。
シリコンバレーの反応:自由市場と政府介入の狭間で
リバタリアン精神が根強いシリコンバレーでは、この動きに対し様々な意見が聞かれます。セコイア・キャピタルのロエロフ・ボータ氏は、TechCrunchのDisruptイベントで「世界で最も危険な言葉は、『私は政府から来た、助けに来た』だ」と冗談めかして述べ、業界の懸念を代弁しました。他のVCも、ポートフォリオ企業が政府支援のスタートアップと競合すること、あるいは取締役会で政府関係者と対面することへの懸念を、水面下で表明しています。
xLightが目指す半導体製造の革新:ASMLへの挑戦
今回の実験の中心となるxLightは、半導体製造において革新的な挑戦を試みています。同社は、より強力で高精度なチップ製造用光源を生み出すため、粒子加速器を動力源とするレーザー(フットボール場ほどの規模)を開発しています。これが成功すれば、1995年から上場し、極端紫外線リソグラフィー装置で絶対的な独占状態にあるオランダの巨人ASMLの支配に挑戦できる可能性があります。
xLightはASMLとの競争だけでなく、さらにその先を目指しています。ASMLの装置が波長13.5ナノメートルで動作するのに対し、xLightは2ナノメートルを目標としています。元Intel CEOで、xLightのエグゼクティブ・チェアマンであるパット・ゲルシンガー氏は、この技術がウェーハ処理効率を30〜40%向上させつつ、はるかに少ないエネルギーで動作させることができると主張しています。
主要人物と国家安全保障の視点
xLightのCEOは、量子コンピューティングと政府研究所での経験が豊富なニコラス・ケレズ氏です。彼の知見は、粒子加速器を活用するこのベンチャーにとって不可欠でしょう。また、昨年IntelのCEOを退任したパット・ゲルシンガー氏もエグゼクティブ・チェアマンとしてこの事業を支援しており、「まだ終わっていない」と強い意欲を示しています。商務長官ハワード・ラトニック氏は、この投資が国家安全保障と技術的リーダーシップに貢献するものであり、「チップ製造の限界を根本的に書き換える」と主張しています。
産業政策としての政府出資:議論の行方
納税者の資金による株式取得が、先見的な産業政策なのか、それとも愛国心を装った国家資本主義なのかについては、依然として批判的な声が上がっています。しかし、懐疑的な見方をする人々も、地政学的な現実を認識しています。ボータ氏も、国家の利益が求められる場合には産業政策の必要性を認めつつ、「米国がこの手段に訴える唯一の理由は、長期的な米国の利益に反する可能性のある戦略的産業を育成するために、産業政策を利用している他の国家が存在するからだ」と述べています。
