Steam Machineの次に来るのはSteam Phoneか?Valveが語るArm対応ゲームの未来

はじめに:Valveの新たな戦略

ゲーム業界の巨人Valveが、WindowsゲームをArmベースのデバイスで動作させるための秘められた取り組みを進めていることが、独占インタビューで明らかになりました。同社は、互換性レイヤー「Proton」とエミュレータ「Fex」を含むオープンソース技術に静かに資金を提供しており、これは将来的に「Steam Phone」のような新しいデバイスへの道を開く可能性を秘めています。

ValveのSteamOSおよびSteam Deckの設計者の一人であるピエール=ループ・グリフェは、「The Verge」のインタビューに対し、同社が2016年から2017年にかけて、WindowsゲームをArmチップ上で動作させるためのオープンソース開発者の募集と資金提供を開始したと語っています。これは、単なる新しいハードウェアの提供にとどまらず、PCゲームのエコシステムを大きく変革する可能性を秘めた戦略です。

ProtonとFex:WindowsゲームをArmで動かす技術

既存のSteam Deckでは、Protonという互換性レイヤーを通じてWindowsゲームがLinux上で動作しています。しかし、Armベースのデバイスでは、これに加えてFexというエミュレータが重要な役割を果たします。

  • Protonの役割: Windowsの実行ファイルをLinux環境で動作させるために、API呼び出しをLinux OS向けに変換します。ゲームコード自体はCPUによってネイティブに実行されます。
  • Fexの役割: Arm上でx86コードをエミュレートし、JIT(Just-In-Time)トランスレータを使用してx86コードをArmコードに変換します。Arm版Protonは、x86コードセグメントがFexを介して実行されるように調整します。

この技術スタックにより、ゲームコードのエミュレーションによるパフォーマンスへの影響は、ゲームがAPI呼び出しを行う境界線で止まるため、Armネイティブコードが実行されることで全体的なパフォーマンスが向上します。ValveはFexの開発を全面的に資金援助しており、「ゲームにとって可能な限り最高のパフォーマンスを達成できる」ように設計されていると強調しています。

なぜ今、Armなのか?Valveの狙い

グリフェ氏によると、ValveがArmに注力する背景には、PCゲーム市場の拡大という明確な目標があります。Armベースのチップセットは、低消費電力かつ低価格帯のデバイスにおいて、x86の競合製品に匹敵する性能を発揮する可能性を秘めているからです。

「Steam Deckよりも低電力なあらゆるデバイスにおいて、Armチップがそのセグメントのx86製品と競争力を持つ可能性があります」とグリフェ氏は述べ、PCゲーマーがデバイスのアーキテクチャを気にすることなく、幅広いゲームを楽しめる環境を提供したいと語っています。これは、ユーザーにとっての障壁を減らし、開発者にとっても新しいデバイスへの参入を容易にすることを目指しています。

SteamOSとArmデバイスの未来

将来的にArmベースのSteamOSデバイスが登場する可能性について、グリフェ氏は大きな期待を寄せています。「ウルトラポータブル、より強力なラップトップ、もちろんハンドヘルドデバイス、そしていつかデスクトップでもArmベースの選択肢が出てくる道を舗装するものです」と彼は語っています。

Arm版SteamOSは、既存のSteamOSと全く同じOSコンポーネントとArch Linuxベースを使用します。違いは、Armに最適化されたProtonが提供される点です。Valveは、まず現行の技術を市場に投入し、その後、OEMとの協業を通じて、SteamOSがより多くのArmデバイスで動作するように推進していく計画です。

「私たちは、ゲーム開発者が異なるアーキテクチャにゲームを移植するのに時間を費やす必要がないようにしたいと考えています。私たちは、彼らがゲームをより良くすることに時間とエネルギーを投資する方がずっと良いと考えています」と、Valveの哲学を語りました。

「Steam Phone」の可能性

では、具体的な「Steam Phone」の登場はあるのでしょうか?グリフェ氏は、「Steam Linkアプリで携帯電話に関する取り組みは行ってきましたが、そのようなデバイス向けにローカルコンテンツを開発したり、SteamOSを開発したりすることが大きな焦点になるとは考えていません」と慎重な姿勢を見せています。しかし、「いかなる可能性も排除しない」とも付け加えており、今後の動向が注目されます。

Armは、低パフォーマンス帯のハンドヘルドゲーミングにおいて「間違いなく良い選択肢」であり、将来的にはSteam Deckと同等の性能を持つデバイスにとっても良い選択肢となる可能性も示唆されています。Valveは、特定の方向へ市場を誘導するのではなく、優れた選択肢が常にサポートされることを望んでいるとのことです。


元記事: https://www.theverge.com/report/820656/valve-interview-arm-gaming-steamos-pierre-loup-griffais