航空技術をデータセンターへ:Boom Supersonicが新戦略
超音速航空機開発企業であるBoom Supersonicは、同社のタービンエンジンを定置型発電プラントとして販売する新たな事業戦略を発表しました。この取り組みの一環として、データセンター企業であるCrusoeに天然ガスタービンを供給することが決定しており、この事業のために3億ドルの資金調達を実施しました。
この投資ラウンドはDarsana Capital Partnersが主導し、Altimeter Capital、Ark Invest、Bessemer Venture Partners、Robinhood Ventures、Y Combinatorなどが参加しています。今回の資金調達とタービン販売からの収益は、Boomの主力事業である超音速旅客機Overtureの開発資金に充当される予定です。
Crusoeデータセンターへの大規模供給計画
Crusoeは、Boomが製造する42メガワットのタービン29基を12億5000万ドルで取得し、データセンターに合計1.21ギガワットの電力を供給する計画です。最初のタービン納入は2027年を予定しており、Boomは来年、タービン工場の詳細を発表する見込みです。
Boomの創業者兼CEOであるブレイク・ショール氏は、この事業モデルをSpaceXのStarlink衛星コンステレーションに例えています。Starlinkの収益がロケット開発の資金源となっているように、Superpower事業がOvertureの開発を加速させることを期待しています。
航空エンジン技術の転用と効率性
定置型タービン「Superpower」は、Boomの航空機用エンジン「Symphony」と80%の部品を共有しており、航空技術の応用がビジネスの核となっています。これにより、既存の航空技術資産を有効活用し、開発コストと時間を削減できるとしています。
Superpowerは、39%の効率性を目指しており、これは競合製品と同等の水準です。将来的なアップグレードとして、排熱を回収して効率を60%以上に高めることができる「コンバインドサイクル(複合サイクル)」への現場アップグレードも視野に入れています。
経済的側面と今後の課題
Crusoeが支払う発電容量あたりの費用は1キロワットあたり1,033ドルとされています。一般的な航空機派生型タービンのコスト(設置・環境制御など込みで1キロワットあたり約1,600ドル)と比較すると、Crusoeはタービン本体と制御システムのみを購入し、環境制御や送電網への接続などは別途手配する必要があります。
総費用は1キロワットあたり2,000ドルを超える可能性があり、これはシンプルなガスタービンとしては高価な部類に入ります。また、タービンがコンテナで配送されるため、Crusoeは電気・ガス接続や汚染防止設備を独自に準備する必要があります。ショール氏は、既存の航空機派生型タービンと同程度の騒音レベルだと述べていますが、周囲の住民からは騒音に対する懸念も報告されています。
生産目標と未来への挑戦
Boomは、2028年に1ギガワット、2029年に2ギガワット、そして2030年には4ギガワットのタービンを生産するという野心的な目標を掲げています。これらの目標が達成されれば、世界中で利用可能なタービンの供給が大幅に拡大することになります。
しかし、生産規模の拡大は常に容易ではなく、多くのスタートアップが初期段階のハードウェア企業から商業的な成功を収めるまでの「死の谷」を乗り越えるのに苦戦しています。この挑戦を乗り越えられれば、超音速商業飛行の実現がBoomの予想よりも早まる可能性を秘めています。
