「The Game Awards」の変質:商業化と開発者軽視の現実
ゲーム業界の一大イベントである「The Game Awards」は、長年にわたりゲームと、それを生み出す人々を称える場として機能してきました。しかし近年、そのあり方が大きく変化し、豪華なコマーシャルの合間に時折アワードが挟まれるショーへと変貌を遂げているという批判が高まっています。業界最大のイベントでありながら、その本質が商業主義に傾倒している現状は、多くの開発者や関係者から懸念の声が上がっています。
2023年の批判と業界の労働危機
特に2023年の「The Game Awards」は、その商業的な側面が最も顕著に表れた年として記憶されています。賞を受け取る開発者たちのスピーチは、30秒という短い時間で打ち切られたり、BGMでかき消されたりすることが常態化していました。その一方で、著名なゲストやHideo Kojima氏のようなクリエイターには、はるかに長い時間が与えられたと報じられています。
また、2023年はゲーム業界が数万人のレイオフに見舞われる深刻な労働危機に直面していたにもかかわらず、イベント内でこの問題に対する言及が一切なかったことが、開発者たちの怒りを買いました。Monomi Parkのシニア環境アーティストであるDillon Sommerville氏は、「Geoff Keighley(イベント主催者)が今年の業界状況について沈黙していることに、非常に失望している」と述べています。
2024年の対応と「Future Class」の終焉
こうした批判に対し、Geoff Keighley氏は2024年には労働問題に言及し、レイオフされた開発者の支援リソースを構築したTencentのAmir Satvat氏が「Game Changer」賞を受賞するなど、一定の対応を見せました。しかし、新たな問題も浮上しています。
多様性、公平性、包摂性(DEI)を推進し、ゲーム業界の未来を担うクリエイターを支援するために2020年に設立された「Future Class」プログラムは、運営側のリソース不足や参加者の懸念が無視されたという報告が相次ぎ、2023年以降は新たな選出が行われず、プログラム自体が事実上終了したとされています。これは、DEIへの取り組みが業界全体で後退している現状を反映していると見られています。
高まる視聴率とビジネス的価値
商業化への批判がある一方で、「The Game Awards」の視聴者数は記録的な数字を叩き出しています。2024年には1億5400万回ものライブストリームを記録し、これは広告主にとって極めて魅力的なプラットフォームとなっています。ゲームの発表やトレイラーの公開は、開発者にとって大きな販売促進効果をもたらし、実際にインディーゲーム「Balatro」のように、受賞後に売上を大幅に伸ばした事例も存在します。
業界の中心としての「The Game Awards」の役割
かつてのE3のような大規模な業界イベントが姿を消し、各パブリッシャーが独自のイベントを開催する傾向が強まる中で、「The Game Awards」はゲーム業界全体が注目する数少ない中心的なイベントとしての地位を確立しています。ゲームの「オスカー」とは異なるかもしれませんが、その華やかなプロダクションと人気は、他の追随を許しません。
商業主義の台頭や開発者コミュニティとの摩擦といった課題を抱えながらも、「The Game Awards」は依然としてゲーム業界における影響力のあるイベントであり続けています。しかし、その輝きを維持するためには、商業的な成功と、ゲームを支える開発者たちへの敬意とのバランスが、今後さらに重要になるでしょう。
元記事: https://www.theverge.com/games/841710/the-game-awards-2025-preview-geoff-keighley
